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February 20, 2006
マルセル・グリリの「フェルッチォ・ブゾーニ」
『音楽芸術』誌の1958年4-7月号に掲載された,マルセル・グリリ(門馬直美訳)の「フェルッチョ・ブゾーニ ― 一つの再評価 ―」(4月号, p.10-14)「フェルッチョ・ブゾーニ ― ロマン主義に対する反動 ―」(5月号, p.36-44),「フェルッチョ・ブゾーニ ― 一つの再評価 ― オペラに於ける集約 」(7月号, p.55-68)という記事のコピーを,山田明子さんのご好意により見ることができましたので,内容を紹介したいと思います。
ブゾーニに関する日本語の文献というと,近年では長木誠司氏の『フェルッチョ・ブゾーニ』が有名ですが,『新音楽美学』は早くから日本語訳されていましたし(1928 服部龍太郎訳 1929二見孝平訳。これが入手できていれば私の拙い訳を公開することもなかったわけですが…),注目する人は注目していたのですね。
マルセル・グリリ Marcel Grilli は日本に住み,日本人女性と結婚し,日本人音楽家を欧米に,また欧米の新しい音楽文化を日本に紹介することに尽力した音楽評論家です。私が『音楽芸術』誌を読むようになったころは,まだときどき執筆していました。死後,そのコレクションは国際基督教大学に寄贈されたそうです(http://subsite.icu.ac.jp/prc/news/J/010215.html)。
内容ですが、おおまかに言って,4月号では「音楽は日常生活と離れているべきものである」という考え方,「若い古典主義」「音楽の単一性」などについて,5月号ではブゾーニの生涯と、イタリア的なものとドイツ的なものの葛藤、三分音、オペラの改革者としてのブゾーニなどについて,7月号ではブゾーニのオペラを詳しく紹介しています。
これは当時としては仕方のないことですが,グリリがブゾーニを紹介する視点は,作品よりも思想に大きく偏っています。これは「何故かというと,ブゾーニが大きな影響を及ぼしたのは,観念の分野にぞくするものだからである」(5月号. p.44)とあるように,ブゾーニの業績のうち,音楽作品よりも著作を高く評価するという伝統的な見方に従っているということです。「自身の作品で彼の高い意図を遂行することができなかった有力な知性的な個人」(5月号, p.40)という,彼の作品を著作より下に置く考え方を,グリリ自身も否定していません。
そして,その著作についても,無条件で絶賛しているわけではありません。「ブゾーニの態度の中には,時代おくれで古臭いものが多くあるかもしれない。しかし,それにしても,彼の観念の適用と思考の中には,大切にされる価値のあるものが沢山ある。」(4月号,p.12),「彼が提出した美学は,実際のところ,すたれてしまつた古いドイツ観念論的な哲学の遺物だったからである,」(同p.14)といったように,ブゾーニの音楽観については,批判的というか懐疑的に,グリリ自身は見ています。
しかし,そのグリリがブゾーニの功績として最も認めているのはオペラの分野における改革です。グリリは,ブゾーニに続く作曲家たちの二つの発展の方向として,ヒンデミットの『今日のニュース』や,ヴァイルの『三文オペラ』に代表される,「歌う役者を利用し,教育,社会批評,諷刺の伝達の手段として台本を重要視する」方向(7月号, p.68) そしてオルフの『ディ・クルーゲ(賢い女)』『月』のようなオペラ的な寓話への志向を挙げたうえで,「こうした二つの傾向は共に,ブゾーニの教義に真直ぐにさかのぼることができるのである」(ibid.)と指摘しています。「彼等(シェーンベルク,ストラヴィンスキー,ヒンデミット)の最終的な肯定は,みな違った方法ではあるが,ブゾーニの教旨で与えられた知的な基礎と刺戟によってもたらされ得たのであった。」(7月号, p.55) という評価は絶賛に近いのではないでしょうか。
ただ,具体的な作品としては,『アルレッキーノ』を高く評価し,『ファウスト博士』については「これは,オペラの問題を長い間そして深く思案した人のものであるが,この人は,最後の手段として,舞台のための劇的な音楽を創作する眼識力に不足していた。」(7月号, p.66) としているのは,現在の一般的な見方とは違います。これは,グリリ自身が,おそらく『ファウスト博士』の実際の演奏やレコードを聴いたことがなかったこと(あくまで推測ですが)に起因するのかもしれません。
他にも、例えばピアノ協奏曲を「ピアノと管弦楽と女声合唱のための扱いにくい協奏曲」としたり(4月号 p.10),「一時ブゾーニは,ホフマンの作品に大変に心を奪われたことがあったようだ」(7月号, p.59 ― 実際は「一時」ではありませんね ―)といった,細部の事実関係の誤りも見られますが,未訳の著作や書簡から多く引用しつつブゾーニの考え方を紹介するこの文献は,いま読んでも有用であろうと思いました。
投稿者 Hayes : 12:13 PM | コメント (4) | トラックバック
February 16, 2006
クリントン・カーペンター死去
マーラーの交響曲第10番の補筆完成版(クックと違ってこの人の場合は「完成」でしょうね)で有名な作曲家クリントン・カーペンターが,2005年12月21日,84歳で亡くなりました。
カーペンター版のにぎやかな10番には賛否両論ありますが(否の方が多いかな),ともすればクック版をこの曲の唯一の姿だと思いがちな我々に,別の可能性を提示してくれた功績は大きかったと思います。R.I.P.
カーペンター版のマーラー10番(リットン指揮)